「海外赴任が決まったけど、介護保険はどうなるの?」「移住したら保険料は払い続けなきゃいけない?」。そんな疑問を持つ方へ、海外赴任・移住時の介護保険の取り扱いと必要な手続きについて社労士がわかりやすく解説します。
結論から言えば、住民票を日本から抜けば介護保険の加入義務はなくなります。ただし、雇用形態や住民票を抜くタイミング、帰国後の手続きなど、知っておくべきポイントがいくつかあります。
✅ この記事の結論(3分でわかるポイント)
- 介護保険は日本に住民票がある40歳以上が対象。住民票を抜けば加入義務はなくなる
- 会社の健康保険に加入継続している場合は「介護保険適用除外該当届」を年金事務所等に提出する
- 住民票を抜いていない場合は、海外にいても介護保険料が発生し続けるので注意
- 海外にいた期間の介護保険料はさかのぼって請求されない(帰国後は転入届から再加入)
- 赴任・移住前に手続きを完了させることが重要。出発後の手続きは難しくなる
1. 介護保険とは?加入条件のおさらい
介護保険は、介護が必要になったときに費用の一部を公的に補助する制度です。市区町村が運営し、保険料を支払うことで介護サービスを利用できます。
加入対象者は年齢によって2種類に分かれています。
第1号被保険者(65歳以上)
市区町村から届く納付書または年金からの天引きで保険料を支払います。要介護・要支援認定を受ければ介護サービスを利用できます。
第2号被保険者(40歳以上65歳未満)
会社で加入している健康保険と一緒に保険料が徴収されます。特定疾病(16種類)が原因で要介護状態になった場合にサービスを利用できます。
どちらの区分も、「日本に住所(住民票)があること」が加入の前提条件です。この点が、海外赴任・移住時の取り扱いの根拠になります。
2. 海外赴任・移住したら介護保険はどうなる?
介護保険法では、日本国内に住所を有する者が被保険者となると定められています。つまり、住民票を日本から抜いて海外に居住することになれば、介護保険の被保険者から外れます。
✅ 住民票を日本から抜いた場合
介護保険の被保険者から外れ、保険料の支払い義務がなくなります。別途「介護保険適用除外該当届」の手続きが必要です(健康保険継続加入者の場合)。
⚠️ 住民票を日本に残したままの場合
日本に住所があるとみなされ、海外にいる間も介護保険料が発生し続けます。意図せず保険料を払い続けるケースが多いので注意が必要です。
⚠️ 1年以上の赴任・移住は原則として住民票の手続きが必要
1年以上、海外に居住する場合は市区町村に国外転出届を提出するのが原則です。出発の2週間前から提出可能です。提出すると住民票が除票(抹消)されます。
3. 出発前にやること:手続きの流れ(3ステップ)
会社の健康保険に加入したまま海外赴任する場合(=最も多いケース)の手続きの流れです。出発前に完了させることが重要です。
市区町村に国外転出届を提出する
住民票のある市区町村の役所窓口で提出します。出発の2週間前から手続き可能です。提出すると住民票が除票され、介護保険の被保険者資格を失います。
「介護保険適用除外該当届」を届出する
健康保険の被保険者(第2号被保険者)として保険料が徴収されていた40歳以上の方は、年金事務所または加入している健康保険に「介護保険適用除外該当届」を提出します。これにより、健康保険料から介護保険料分が控除されなくなります。会社経由で手続きを進めるのが一般的です。
介護保険被保険者証を返却する
65歳以上(第1号被保険者)の方は、市区町村に介護保険被保険者証を返却します。40歳以上65歳未満(第2号被保険者)の方は被保険者証の発行がないため、返却は不要です。
4. 【ケース別】住民票を抜く・抜かないで何が変わる?
赴任・移住のパターンによって対応が異なります。自分のケースがどれに当てはまるか確認しましょう。
📌 ケース① 会社の健康保険加入継続・住民票を抜く(最多パターン)
日本の会社に雇用関係が続く出向・赴任の場合。「介護保険適用除外該当届」を年金事務所等に提出することで介護保険料の徴収が停止されます。健康保険は継続加入のままです。
📌 ケース② 国民健康保険加入・住民票を抜く
自営業者や現地採用などで国民健康保険に加入していた場合。転出届と同時に国民健康保険・介護保険ともに資格喪失します。市区町村窓口で脱退の手続きが必要です。
📌 ケース③ 住民票を抜かずに赴任(1年未満の短期赴任など)
住民票が日本に残っているため、介護保険料は引き続き発生します。
📌 ケース④ 海外移住(永住・長期滞在)
転出届を提出し住民票を抜くことで介護保険の義務はなくなります。帰国後は転入届を提出した日から介護保険が再加入となり、海外にいた期間の保険料はさかのぼって請求されません。
5. 知っておくべき3つの注意点
① 保険料を払わない期間があっても帰国後の受給に影響しない
海外在住中に介護保険料を支払っていなかったとしても、帰国後に転入届を出せばその時点から被保険者となり、介護サービスを利用できるようになります。海外赴任期間分の保険料をさかのぼって請求されることもありません。
💡 ポイント
介護保険は「払った分が積み立てられる」仕組みではなく、「加入中に要介護になったら使える」仕組みです。海外にいる間は日本の介護サービスを使う機会がないため、保険料を払わなくても実質的なデメリットは少ないと言えます。
② 手続きを忘れると保険料が二重にかかる可能性がある
住民票を抜いたにもかかわらず「介護保険適用除外該当届」の提出を忘れると、健康保険料の中に介護保険料分が含まれたまま徴収され続ける場合があります。転出届の提出と適用除外届の提出はセットで行うことを意識しましょう。
③ 家族(被扶養者)の取り扱いにも注意
40歳以上の扶養家族(配偶者など)が帯同して海外に転出する場合も同様に手続きが必要です。本人だけでなく帯同家族の介護保険の手続きも忘れずに確認してください。
6. 帰国したらどうする?
帰国後は速やかに以下の手続きを行います。
市区町村に転入届を提出する
帰国後、居住する市区町村の役所で転入届を提出します。転入届を提出した日から介護保険の被保険者に復帰します(40歳以上の場合)。
「介護保険適用除外非該当届」を提出する
健康保険に加入継続していた方は、年金事務所等に「介護保険適用除外非該当届」を提出します。これにより、健康保険料への介護保険料分の上乗せ徴収が再開されます。会社の担当部署に速やかに連絡しましょう。
7. よくある質問
Q. 海外赴任が1年未満の場合でも住民票を抜いた方がいいですか?
1年未満の場合、転出届の提出は義務ではありません。ただし、任意で住民票を抜くことは可能です。住民票を抜けば介護保険料や住民税の負担を減らせる一方、住民票がないと一部の行政サービスが使えなくなる面もあります。赴任期間や家族の状況を踏まえて判断することをおすすめします。
Q. 海外赴任中に40歳になった場合、介護保険はどうなりますか?
住民票を抜いて海外に居住している場合、40歳になっても介護保険の被保険者にはなりません。帰国して転入届を提出した時点から被保険者となります。ただし、健康保険に加入継続している場合は適用除外届の状態が継続しますので、会社に確認しましょう。
Q. 帰国後、すぐに介護サービスを使えますか?
転入届を提出して被保険者になった後、要介護・要支援の認定申請を行い、認定を受ければサービスを利用できます。認定結果が出るまでに通常1〜2か月かかります。なお、海外にいた期間分の保険料をさかのぼって請求されることはありません。
Q. 海外移住(永住目的)の場合も手続きは同じですか?
基本的な手続きは同じです。転出届を提出し、健康保険に加入継続している場合は適用除外届を提出します。永住の場合は日本に戻らない可能性も高いため、健康保険の任意継続や民間保険の検討なども含め、総合的に保険設計を見直すことをおすすめします。
Q. 出発後に手続きを忘れていたことに気づいた場合はどうすればいいですか?
会社の担当部署または年金事務所に相談してください。後から適用除外の手続きができる場合もありますが、対応が遅れると余分な保険料が徴収される期間が長くなります。早めに専門家(社労士等)に相談することをおすすめします。
まとめ
介護保険は日本に住民票がある40歳以上が対象の制度です。海外赴任・移住にあたって住民票を抜けば加入義務はなくなりますが、健康保険に加入継続している場合は「介護保険適用除外該当届」の提出が別途必要です。この手続きを忘れると、住民票を抜いた後も介護保険料が徴収され続ける場合があるため注意が必要です。
手続きはすべて出発前に完了させるのが原則です。帰国後はさかのぼって保険料を請求されることもなく、転入届の提出日から自動的に再加入となります。
「うちの社員のケースはどう対応すればいい?」とお悩みの会社担当者の方は、ぜひ一度ご相談ください。
監修者プロフィール
下村 圭祐(しもむら けいすけ)
社会保険労務士法人シモムラパートナーズ 代表
中小企業の労務管理・社会保険手続きを専門とする社会保険労務士。採用から退職まで、労働関係法令に基づいた適切な職場環境づくりをトータルサポート。海外赴任・出向に伴う社会保険手続きや出向規程の整備など、グローバルな労務課題にも対応。「正しい知識で、安心して人を動かせる会社をつくる」をモットーに、全国の中小企業の労務顧問として幅広く活動中。
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参考資料・出典
・介護保険法第9条(被保険者の定義)
・日本年金機構「介護保険の被保険者から外れるまたは被保険者になるための手続き」
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/
・厚生労働省「介護保険制度について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/





