「パートさんを採用したいが、最低賃金を払うのが難しい事情がある…」「障がいのある方を雇いたいが、賃金設定をどうすれば良いかわからない」。そんなお悩みを持つ経営者・総務担当者の方へ、最低賃金の減額の特例許可制度についてわかりやすく解説します。
この制度を正しく理解し適切に活用することで、法律違反のリスクを避けながら、多様な人材を積極的に採用できるようになります。
✅ この記事の結論(3分でわかるポイント)
- 最低賃金の特例とは、都道府県労働局長の許可を受けた場合のみ最低賃金を下回る賃金が認められる制度
- 対象は障がい者・試用期間中・職業訓練中・軽易業務・断続的労働の5種類
- 許可なく最低賃金を下回ると50万円以下の罰金(最低賃金法第40条)
- 許可には有効期限があり、毎年更新が必要
1. 最低賃金の特例制度とは?
最低賃金制度とは、最低賃金法(昭和34年法律第137号)に基づき、使用者が労働者に支払わなければならない賃金の最低額を定めた制度です。正社員・パート・アルバイトを問わず、すべての労働者に適用されます。
しかし、一般の労働者と比べて著しく労働能力が低いケースなどに一律に最低賃金を適用すると、かえって雇用機会が失われてしまうおそれがあります。そこで設けられたのが「最低賃金の減額の特例許可制度」です。
使用者が都道府県労働局長の許可を受けることを条件として、特定の労働者については最低賃金を下回る賃金の支払いが認められています。
⚠️ 重要:許可なく最低賃金を下回った場合は違法です
この制度はあくまで「事前に許可を得た場合のみ」適用されます。許可なく最低賃金を下回る賃金を支払った場合、50万円以下の罰金(最低賃金法第40条)が科される可能性があります。
2. 特例の対象となる5つのケース
最低賃金法第7条により、以下の5つのケースが減額の特例対象として定められています。自社の状況と照らし合わせて確認してください。
① 精神または身体の障がいにより著しく労働能力の低い方
障がいがあるだけでは対象になりません。その障がいが業務の遂行に直接的な影響を与えており、労働能力が著しく低いと認められる必要があります。たとえば、知的障がいにより作業スピードが一般労働者と比べて大幅に低下している場合などが該当します。
② 試の使用期間中の方
いわゆる試用期間中の労働者が対象です。ただし、試用期間の延長や繰り返し適用はできません。また、正式採用後は通常の最低賃金が適用されます。
③ 基礎的な技能・知識を習得させるための職業訓練を受ける方
職業能力開発促進法に基づく認定職業訓練などを受けている期間中が対象です。訓練内容や期間について、所定の要件を満たす必要があります。
④ 軽易な業務に従事する方
身体的・精神的な事情により、通常の業務に就くことが困難で、軽易な業務のみに従事している方が対象です。高齢者や体力が著しく低下している方などが該当するケースがあります。
⑤ 断続的労働に従事する方
実際に作業をしている時間よりも待機時間(手待ち時間)が長い業務に従事する方が対象です。たとえば、警備員や宿直勤務者などが該当する場合があります。待機時間が作業時間を上回ることが条件です。
3. 減額できる割合の目安
減額できる割合は対象者の種類によって異なり、都道府県労働局長が個別に判断します。以下が参考となります。
障がいにより労働能力が低い方
📊 減額率:個別判断(労働能力の程度による)
備考:障がいの種類・程度を勘案
試の使用期間中の方
📊 減額率:最低賃金額の20%以内
備考:試用期間中のみ適用
職業訓練中の方
📊 減額率:法令に基づく上限の範囲内
備考:訓練期間中のみ適用
軽易業務従事者
📊 減額率:個別判断
備考:業務の軽易度を勘案
断続的労働従事者
📊 減額率:実作業・手待ちの割合等を踏まえ個別判断
備考:待機時間の割合による
※上記はあくまで目安です。実際の減額率は申請内容に基づき個別に決定されます。
4. 申請の手順と提出先(4ステップ)
特例の適用を受けるには、賃金を支払う前に必ず許可を取得する必要があります。事後申請は認められません。
申請書を準備する
対象者の種類に応じた様式(様式第1号〜第5号)を使用します。厚生労働省のWebサイトからダウンロードできます。
📎 申請書様式・記入要領(厚生労働省)
添付書類を揃える
障がい者の場合は診断書や障害者手帳の写し、職業訓練の場合は訓練計画書など、対象者の種類に応じた証明書類が必要です。
事業場を管轄する労働基準監督署へ提出
郵送または窓口持参での提出が可能です。審査には一定の期間がかかるため、余裕を持って申請してください。
許可通知を受け取り、適用開始
許可が下りたら、通知書に記載された条件・期間内で減額した賃金を支払うことができます。許可証は必ず保管してください。
📌 参考:厚生労働省 公式情報
最新の申請書様式・記入要領は以下の厚生労働省公式ページでご確認ください。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/
5. 経営者が必ず知っておくべき注意点
① 許可には有効期限がある
許可は永続的ではなく、更新が必要なケースがほとんどです。期限切れのまま減額賃金を支払い続けると法律違反になります。更新時期をカレンダーに登録するなど、管理を徹底しましょう。
② 対象者への丁寧な説明が必須
特例を適用する場合、対象となる労働者に対して適用条件・減額率・許可期間などを丁寧に説明することが重要です。本人の同意を得ていても、説明が不十分だとトラブルの原因になります。
③ 3点セットの書類整備
通常の最低賃金を下回る賃金を支払う場合、労働基準監督署の調査が入った際に「許可書・賃金台帳・雇用契約書」等をすぐに提示できる状態にしておく必要があります。
④ 最低賃金は毎年10月に改定される
地域別最低賃金は毎年10月頃に改定されます。特例の減額率は「改定後の最低賃金」を基準に計算されるため、改定のたびに実際の支払額の見直しが必要です。見落とすと違法状態になるので注意が必要です。
6. よくある質問
Q. 試用期間中の全員に特例を適用できますか?
いいえ。試用期間中であっても、申請・許可を受けた場合のみ適用できます。「試用期間だから最低賃金以下でいい」というわけではありません。
Q. 障がい者雇用促進法の特例雇用と関係はありますか?
別制度です。障がい者雇用促進法に基づく雇用率制度とは独立した制度ですので、それぞれ要件を確認する必要があります。
Q. 申請が却下された場合はどうなりますか?
許可が下りない場合は、通常の最低賃金を支払う必要があります。申請中であっても、許可が下りるまでは最低賃金以上の賃金を支払わなければなりません。
Q. パートタイム労働者にも適用できますか?
はい。パート・アルバイト・有期雇用など雇用形態を問わず、要件を満たせば申請できます。
監修者プロフィール
下村 圭祐(しもむら けいすけ)
社会保険労務士法人シモムラパートナーズ 代表
中小企業の労務管理・社会保険手続きを専門とする社会保険労務士。採用から退職まで、労働関係法令に基づいた適切な職場環境づくりをトータルサポート。特に、障がい者雇用・多様な雇用形態への対応・賃金制度の設計など、企業が抱える複雑な労務課題に強みを持つ。「正しい知識で、安心して人を雇える会社をつくる」をモットーに、全国の中小企業の労務顧問として幅広く活動中。
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参考資料・出典
・最低賃金法(昭和34年法律第137号)第7条・第40条
・厚生労働省「最低賃金の減額の特例許可申請書様式・記入要領」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/
・長崎労働局「最低賃金の減額の特例許可制度」







