メンタルヘルス不調や私傷病による休職が長期化し、復職の見通しが立たない。中小企業の経営者や人事担当者にとって、こうした場面は非常に頭を悩ませる問題です。「退職させたいけれど、不当解雇と言われないか」「どのような手続きを踏めばいいのか」と不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、休職期間満了による「自然退職」の要件と手続きについて、就業規則の定め方から復職判定のプロセス、社会保険の届出まで実務に沿って解説します。正しい手順を踏めば、トラブルを防ぎながら適切に対応することが可能です。
結論:休職期間満了による自然退職で押さえるべきポイント
- ✅ 就業規則に休職・自然退職規定があることが大前提。規定がなければ自然退職扱いは困難
- ✅ 休職期間満了による自然退職と解雇は法的に異なる。退職届がなくても退職が成立する
- ✅ 復職可否の判断は主治医の診断書+産業医の意見を踏まえて慎重に行う
- ✅ 退職扱いにするには本人への通知文書と退職日の明確化が不可欠
- ✅ 社会保険・雇用保険の資格喪失届や離職票の離職理由は正確に記載する
休職制度の法的位置づけ|法律上の義務ではない
休職制度は「会社のルール」に基づく
まず押さえておきたいのは、休職制度は法律で設置が義務づけられているものではないという点です。労働基準法(昭和22年法律第49号)には、休職に関する規定がありません。
つまり、休職制度はあくまで会社が就業規則で独自に定めるものです。制度を導入するかどうか、休職期間をどのくらいに設定するかは、基本的に会社の裁量に委ねられています。
ただし、労働基準法第89条では、従業員が常時10人以上の事業場について就業規則の作成と届出を義務づけています。そして同条第10号では「休職に関する事項」を定めをする場合には記載しなければならない事項(相対的必要記載事項)として挙げています。休職制度を設ける場合は、必ず就業規則に明記する必要があります。
就業規則がない場合のリスク
就業規則に休職規定がない状態で従業員を「退職扱い」にすると、その法的根拠が曖昧になります。従業員から「不当解雇だ」と主張されるリスクが高まるため、まずは就業規則の整備が第一歩です。
「自然退職」と「解雇」の違い
自然退職とは何か
自然退職とは、就業規則に定めた休職期間が満了し、かつ復職できない場合に、退職届や解雇通知なしで自動的に労働契約が終了する仕組みです。「当然退職」「自動退職」と呼ばれることもあります。
会社側が一方的に契約を打ち切る「解雇」とは異なり、就業規則という労使間のルールに基づいて退職の効果が発生する点が大きな違いです。
法的な違いを整理する
- 就業規則の規定に基づき労働契約が終了する
- 退職届は不要
- 解雇予告(労働基準法第20条)は原則不要
- 解雇権濫用法理(労働契約法第16条)の適用を受けない
- 会社の一方的な意思表示により労働契約を終了させる
- 30日前の解雇予告または解雇予告手当の支払いが必要
- 客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要(労働契約法第16条)
- 要件を満たさない場合は解雇無効となるリスクがある
退職金・失業給付への影響
自然退職の場合、退職金の扱いは就業規則や退職金規程の定めによります。「自己都合退職」として支給される場合が一般的ですが、規程の内容次第で異なります。
失業給付(雇用保険の基本手当)については、離職理由が重要です。休職期間満了による自然退職は、一般的に「自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇」には該当しません。離職票の離職理由を正確に記載することで、給付制限なく受給できる場合があります。この点は後述する離職票の記載方法で詳しく説明します。
就業規則に定めるべき休職規定のポイント
自然退職を適切に運用するためには、就業規則の休職規定を具体的に定めておくことが不可欠です。規定が曖昧だとトラブルの原因になります。以下の項目を漏れなく整備することをおすすめします。
① 休職事由
どのような場合に休職を命じるのかを明確にします。主な休職事由としては以下のようなものがあります。
- 業務外の傷病(私傷病)により連続して一定期間欠勤した場合
- 精神的な疾患により通常の業務遂行が困難な場合
- その他、会社が休職を命じる必要があると認めた場合
「業務外の」という文言は必ず入れることをおすすめします。業務上の傷病(労災)による休業は労働基準法第19条で解雇制限が適用されるため、私傷病休職とは明確に区別する必要があります。
② 休職期間
休職期間は法律で定められていないため、会社が自由に設定できます。中小企業では3か月~1年程度とすることが多いです。勤続年数に応じて段階的に設定する方法もあります。
- 勤続1年未満:3か月
- 勤続1年以上3年未満:6か月
- 勤続3年以上:1年
期間を長くしすぎると、会社にとってポストの空白が続くリスクがあります。反対に短すぎると、従業員の回復機会を十分に確保できず、裁判で争われた場合に不利になる可能性もあります。業種や会社規模に応じたバランスが重要です。
③ 復職判定基準
休職期間中に回復した場合の復職手続きを明確にしておきます。特に以下の点を定めることをおすすめします。
- 復職には主治医の復職可能との診断書の提出を義務づける
- 会社が指定する医師(産業医など)の意見を求めることができる旨を記載する
- 「従前の業務を通常に遂行できる状態」を復職の基準とする
- 試し出勤(リハビリ出勤)制度を設ける場合はその条件も記載する
④ 自然退職条項
もっとも重要なのが、休職期間満了時に復職できない場合の取り扱いを明記することです。以下のような条項が一般的です。
📝 規定例
「休職期間が満了してもなお休職事由が消滅しないときは、休職期間の満了をもって退職とする。」
この条項が就業規則に明記されていれば、解雇手続きを経ることなく、休職期間の満了日をもって労働契約が終了します。「退職とする」ではなく「解雇する」と書いてしまうと、解雇の手続き(予告や合理的理由の証明)が必要になるため、文言の選び方には注意が必要です。
復職可否の判断プロセス
休職期間満了が近づいた段階で、復職できるかどうかを適切に判断するプロセスが必要です。この判断を曖昧にすると、後から「復職できたのに退職させられた」と争われるリスクがあります。
ステップ1:主治医の診断書を取得する
主治医の診断書を提出してもらう
休職期間満了の1〜2か月前を目安に、本人に対して主治医の診断書の提出を求めます。診断書には「復職可能かどうか」「業務上の配慮事項」「就労可能な業務内容・時間の制限」などを記載してもらうことが望ましいです。
ただし、主治医の診断書は日常生活レベルの回復を基準にしている場合があるため、それだけで復職可否を判断するのは危険です。「日常生活が送れる」ことと「業務を遂行できる」ことには差があります。
ステップ2:産業医面談を実施する
産業医または会社指定医の意見を聴取する
主治医の診断書を踏まえ、産業医面談を実施します。産業医は職場環境や業務内容を理解したうえで「実際の業務遂行が可能か」を判断できる立場にあります。厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」でも、主治医と産業医の両方の意見を踏まえた復職判定が推奨されています。
産業医がいない中小企業(従業員50人未満の事業場)の場合は、地域産業保健センター(さんぽセンター)の無料相談を活用することができます。
ステップ3:試し出勤制度を活用する
試し出勤(リハビリ出勤)で実際の就労状況を確認する
復職の可否を慎重に見極めるために、短時間勤務や軽い業務から段階的に復帰する「試し出勤制度」を設けることが有効です。出勤の様子、業務遂行状況、体調の変化を一定期間記録し、最終判断の材料とします。
⚠ 注意
試し出勤期間中の賃金・労災の取り扱いは事前に明確にしておく必要があります。就業規則や個別の合意書で「試し出勤は休職期間中の扱いとする」などと定めておくと、トラブルを防ぎやすくなります。
ステップ4:最終判断と本人への通知
復職可否を決定し、本人に書面で通知する
主治医の診断書、産業医の意見、試し出勤の記録を総合的に検討したうえで、会社として復職の可否を最終判断します。復職不可と判断した場合は、休職期間満了による退職となる旨を書面で通知します。
休職期間満了時の実務手続きフロー
復職不可と判断した場合、具体的にどのような手続きが必要になるのかを時系列で解説します。
① 本人への通知文書を送付する
休職期間満了の少なくとも2〜4週間前を目安に、本人へ通知文書を送付します。通知には以下の内容を盛り込むことをおすすめします。
- 休職期間の満了日
- 復職不可と判断した経緯(主治医・産業医の意見に基づく旨)
- 就業規則の該当条文(「第○条により退職となります」)
- 退職日(=休職期間満了日)
- 退職後の手続き(保険証の返却、貸与品の返却など)
通知は内容証明郵便または特定記録郵便で送ることをおすすめします。到達の証拠を残しておくことで、後のトラブルを防ぐことができます。
② 退職日を確定する
自然退職の場合、退職日は原則として就業規則に定めた休職期間の満了日です。この日付が社会保険や雇用保険の資格喪失日の基準となるため、明確にしておくことが重要です。
③ 社会保険の資格喪失届を提出する
退職日の翌日が被保険者資格の喪失日となります。会社は退職日から5日以内に、管轄の年金事務所(または健康保険の届出先)に「被保険者資格喪失届」を提出する必要があります。
📌 ポイント
休職中も社会保険料は発生しています。休職中に本人が負担すべき保険料を立て替えていた場合は、退職時に精算方法を確認しておくことが必要です。
④ 雇用保険の資格喪失届・離職証明書を提出する
退職日の翌日から10日以内に、管轄のハローワークに「雇用保険被保険者資格喪失届」と「離職証明書」を提出します。
離職証明書の離職理由の記載は特に重要です。休職期間満了による自然退職は、一般的に以下のように記載します。
離職証明書の離職理由欄は、「5 労働者の判断によらない理由」のうち「(2) 労働契約期間満了等によるもの」に該当する場合が多いです。具体的な区分はハローワークの窓口で確認することをおすすめします。
離職理由の記載を誤ると、従業員の失業給付の受給に影響が出る場合があります。自己都合退職ではなく、就業規則に基づく休職期間満了による退職である旨を正確に記載してください。
⑤ その他の事務手続き
- 健康保険証の回収(被扶養者分も含む)
- 住民税の特別徴収に関する異動届の提出
- 退職金の支払い手続き(退職金規程に基づく)
- 源泉徴収票の発行
- 貸与品(PC、社員証、制服など)の返却依頼
トラブルを防ぐための注意点
休職中の連絡頻度に配慮する
休職中は、月1回程度を目安に本人の体調や回復状況を確認することが望ましいです。連絡を取らないまま休職期間が満了すると、本人にとって「突然の退職通知」となり、トラブルに発展しやすくなります。
一方で、過度に頻繁な連絡はかえってストレスになる場合もあります。特にメンタルヘルス不調による休職の場合は、主治医の意見も聞きながら適切な頻度を設定することをおすすめします。連絡方法や頻度を休職開始時に本人と合意しておくと安心です。
傷病手当金との関係を理解する
私傷病で休職中の従業員は、健康保険の傷病手当金を受給している場合があります。傷病手当金は、支給開始日から通算して1年6か月が支給期間の上限です(令和4年1月以降の支給開始分から通算化)。
📌 退職後も受給できる場合がある
退職日までに被保険者期間が継続して1年以上あり、退職日に傷病手当金を受給しているか、受給条件を満たしている場合は、退職後も引き続き傷病手当金を受給できる場合があります(健康保険法第104条・資格喪失後の継続給付)。退職前に本人へ案内しておくと親切です。
⚠ 退職日の出勤に注意
退職日(資格喪失日の前日)に出勤した場合、資格喪失後の継続給付の要件を満たさなくなる場合があります。退職日には出勤しないよう、本人に説明しておくことが重要です。
不当解雇と主張されないための証拠管理
休職期間満了による自然退職は、法的には解雇ではありません。しかし、手続きが不十分な場合、従業員から「実質的な解雇だ」と主張されるケースがあります。以下のような証拠を保管しておくことで、万一の紛争に備えることができます。
- 就業規則(休職規定・自然退職条項が記載されていることを確認)
- 休職辞令(休職開始日・期間の記載があるもの)
- 主治医の診断書
- 産業医の意見書
- 休職中の本人との連絡記録(メール・書面など)
- 復職判定に関する会議の議事録
- 休職期間満了の通知書(送付の記録を含む)
- 試し出勤の記録(実施した場合)
復職後すぐに再休職するケースへの対策
復職したものの、短期間で再び同じ傷病により欠勤が続くケースもあります。このような場合に備えて、就業規則に「復職後6か月以内に同一または類似の事由で欠勤した場合は、前回の休職期間と通算する」といった通算規定を設けておくことをおすすめします。
通算規定がないと、復職のたびに休職期間がリセットされ、実質的に長期間の在籍が続くことになります。
まとめ
休職中の従業員を退職させたい場合、もっとも重要なのは就業規則に休職規定と自然退職条項を明記しておくことです。この規定があれば、休職期間満了時に復職できない従業員との労働契約を「解雇」ではなく「自然退職」として終了させることができます。復職可否の判断にあたっては、主治医の診断書だけでなく産業医の意見も踏まえ、客観的かつ慎重に進めることが大切です。
手続き面では、本人への事前通知を十分な余裕をもって行うこと、社会保険・雇用保険の届出を期限内に正確に行うこと、そして離職票の離職理由を適切に記載することがポイントです。傷病手当金の継続給付についても本人に案内しておくと、退職後のトラブルを防ぎやすくなります。
就業規則の休職規定が整備されていない場合は、今回の内容を参考に早めの見直しをおすすめします。規定の作成や見直し、実際の退職手続きに不安がある場合は、社会保険労務士にご相談いただくことで、法的リスクを最小限に抑えた対応が可能です。休職・退職の対応でお悩みの担当者の方は、ぜひ一度ご相談ください。

監修者:下村 圭祐(しもむら けいすけ)
社会保険労務士法人シモムラパートナーズ 代表
社会保険労務士として、中小企業の労務管理・社会保険手続きを専門とする。採用から退職まで、労働関係法令に基づいた適切な職場環境づくりをトータルサポート。海外赴任・出向に伴う社会保険手続きや出向規程の整備など、グローバルな労務課題にも対応。『正しい知識で、安心して人を動かせる会社をつくる』をモットーに、全国の中小企業の労務顧問として幅広く活動中。
休職・退職の対応、一人で悩まないでください
就業規則の休職規定の整備から、自然退職の手続き、社会保険・雇用保険の届出まで、シモムラパートナーズがトータルでサポートします。
初回相談は無料です。まずはお気軽にお問い合わせください。
shimomura@sr-smpartners.com
参考資料・出典
- 厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」
https://www.mhlw.go.jp/stf/ seisakunitsuite/ bunya/ 0000055195_00005.html - e-Gov法令検索「労働基準法」
https://laws.e-gov.go.jp/law/ 322AC0000000049 - e-Gov法令検索「労働契約法」
https://laws.e-gov.go.jp/law/ 419AC0000000128 - e-Gov法令検索「健康保険法」
https://laws.e-gov.go.jp/law/ 211AC0000000070 - 厚生労働省「傷病手当金について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/ seisakunitsuite/ bunya/ kenkou_iryou/ iryouhoken/ juuyou/ kougaku/ syobyou.html - 日本年金機構「被保険者資格喪失届の提出」
https://www.nenkin.go.jp/service/ kounen/ tekiyo/ hihokensha1/ 20150407-02.html





